低表面エネルギープラスチックの接着を高めるPYROSIL®処理 — 用途拡大を後押しする最新の進展
PYROSIL®処理は、接着対象面の密着性を高めるために用いられる燃焼化学気相成長(CCVD)プロセスです。PYROSIL®は大気圧下で行うグロー放電型プラズマ処理で、インラインへ容易に組み込めます。インク印刷の前処理としてガラス製品、セラミックス、金属に非常に有効で、優れた密着性、耐擦傷性、耐薬品性が得られます。ポリマー用途でPYROSIL®があまり普及していないのは、次のような要因によるものです。
- 用途に対する誤解
- 不適切な装置とセットアップ
- 表面分析試験の不足
- 業界用語の混乱
本稿では、実証研究に裏付けられた、2次元および3次元のプラスチック用途における接着性向上のためのPYROSIL®を解説します。
多くのポリマーは本質的に疎水性で表面エネルギーの低い基材であり、同種・異種を問わず他材料と密着しにくい性質があります。表面改質法は、ほとんどの密着問題を解決できることが実証されています。従来の手法には、コロナ放電、火炎プラズマ、大気圧プラズマ、低温ガスプラズマ、紫外線(UV)照射・オゾンなどがあります。ポリマー表面の酸化前処理では、極性の反応性基が導入され、表面自由エネルギーが向上し、その結果として濡れ性と接着性が高まります。より新しい手法であるPYROSIL®火炎処理は、接着が難しいポリマーの密着性を高める非常に効果的なプロセスとして急速に台頭しています。SURA Instruments GmbH、Applied Surface Technologies LLC、The Sabreen Group Incは、プラスチック製品の接着を最適化するためのPYROSIL®の発展に向けて協力しています。
重要ポイント
- Pyrosilはシリカを堆積させますが、火炎処理は堆積させません。これが両プロセスの根本的な違いです。
- 形成される層は厚さ5~100 nmの非晶質SiO2で、Si-OH基を高密度に含むため、強い親水性の表面とナノスケールの粗さが得られます。
- 公表された試験では大気圧プラズマを上回りました。水接触角は、PBTが10.1°、PEEKが10.5°、PPSが24.0°まで低下しました。
- 大気圧下で動作するため、PECVDのようなオフラインのバッチ処理ではなく、インラインに組み込めます。
- 検証にはダインペンではなくXPSを使用してください。ダイン液では確認できないO2とSiO2の組成は、元素分析でのみ確認できます。
よくあるご質問
Pyrosilは通常の火炎処理とどう違いますか?
どちらも炭化水素燃料を燃焼させる気相酸化プロセスで、バーナーや制御系も似ています。違いは、Pyrosilでは炎にケイ素含有の前駆体を添加し、表面に非晶質SiO2を堆積させる点です。火炎処理では堆積しません。外観上も、従来の火炎処理の炎が青みがかっているのに対し、Pyrosilの炎は赤みがかっています。
堆積する層の厚さはどのくらいですか?
反応性の高い酸化ケイ素の層で、厚さは5~100 nmです。基材または炎の速度、パス回数、基材温度、炎と基材の距離によって制御します。
Pyrosilは本当に大気圧プラズマより優れていますか?
公表された比較試験では、優れていました。水接触角は、PBTでは未処理の86.2°がプラズマで29.0°、Pyrosilで10.1°に低下しました。PEEKは91.6°からプラズマで17.7°、Pyrosilで10.5°に、PPSは104.0°からプラズマで30.3°、Pyrosilで24.0°になりました。
PyrosilとPECVDはどう違いますか?
PECVDもSiO2を堆積させますが、離れた場所にある真空チャンバー内で行うため、オフラインのバッチ処理となり、設備費と消耗品費が高額になります。Pyrosilは大気圧下での燃焼化学気相成長であり、コスト効率の高いインライン生産にはるかに適しています。
Pyrosil処理した表面はどのように検証すべきですか?
ボールスティック堆積法で後退接触角を測定して極性を求め、XPS試験でO2とSiO2の元素組成を定量します。高価な試験ではありません。ダイン液試験だけでは必要な情報が得られません。
火炎処理とスプレー式プライマーの組み合わせはPyrosilと同じですか?
いいえ。急速加熱のための火炎処理に続けて噴霧式の化学プライマーを塗布する方法は別の手法であり、プライマーにSiOx種が含まれる場合でも同様です。これは燃焼化学気相成長ではありません。
PYROSIL®とは?
PYROSIL®処理は、燃焼化学気相成長(CCVD)により、基材表面に非晶質の二酸化ケイ素(SiO2)層を堆積させる表面改質技術です。SURA Instruments GmbHが1980年代に装置とプロセスを開発し、接着剤との接合性を高める本技術の最初の商業化に成功しました。
火炎熱分解により、反応性が高く疎水性の酸化ケイ素の薄い層(5~100 nm)を基材上に形成できます。その結果、堆積したSiO2粒子の表面に高密度のSi-OH基が存在し、ナノスケールの粗さも加わるため、明確な親水性表面が形成されます。ケイ素含有膜は、ポリマー、ガラス、セラミックス、金属など多くの用途で使われています。
このプロセスでは、処理対象の製品を、従来の火炎処理と同様の方法で、ケイ素含有の前駆体材料(PYROSIL®)を添加した層流ガス炎の中に通します(図1を参照)。炎と基材の接触時間が短いため、熱に弱いプラスチック材料にも適用できます。燃焼化学気相成長(CCVD)は、大気中で基材上に薄膜コーティングを堆積させる化学プロセスです。CCVDでは、燃焼ガスに前駆体化合物を添加し、コーティング対象の表面のすぐ上で炎を移動させます。
炎の高いエネルギーによって前駆体が反応性の高い中間体に変換され、基材と容易に反応して強固に密着した堆積物を形成します。堆積層の微細構造と厚さは、基材または炎の速度、パス回数、基材温度、炎と基材の距離などのプロセスパラメータで制御されます。最も一般的に堆積されるのは二酸化ケイ素層です。堆積直後の層は反応性が高いため、ポリマーコーティングや接着の密着促進層として機能します。
PYROSIL®と火炎処理の比較
PYROSIL®と従来の火炎プラズマ処理はプロセス面で共通点がありますが、火炎の化学的性質と表面の機能化のメカニズムは異なります。Plastics Decorating Magazine Online掲載の「Flame Plasma Surface Modification of Polymers for Adhesion Bonding」をご参照ください。どちらも気相での表面酸化プロセスで、管理された条件下で炭化水素燃料を燃焼させ、基材表面を改質する火炎プラズマを生成します。予混合層流火炎により発熱反応が起こります。PYROSIL®の炎は赤みがかった色で、従来の火炎処理の炎は青みがかった色です(写真1を参照)。
主な違いは、PYROSIL®ではSiO2が生成され、火炎処理では生成されない点です。その結果、堆積したSiO2粒子の表面に高密度のSi-OH基が存在し、明確な親水性表面が形成されます。使用する燃焼装置、リボンバーナー、プロセスのセットアップと制御は同様のものです。
プロセス制御の主な変数は、火炎の化学的性質、火炎から基材までの距離、処理の滞留時間の3つです。処理は、主反応の発光帯(酸化領域)で行う必要があります。
PYROSIL®の場合、有機ケイ素化合物のテトラメチルシラン(TMS)の燃焼とSiO2の生成を表す式の一例は次のとおりです。
Si(CH3)4 + 13 O2 + C3H8 —- SiO2 + 10 H2O + 7 CO2
天然ガスによる火炎処理の場合、燃焼反応は次の式で表されます。
CH4 + 2O2 + 8N2 —- CO2 + 2H2O + 8N2
どちらの燃焼反応でも、副生成物としてCO₂とH₂Oが生成されます。
PYROSIL®と低温ガスプラズマの比較
PYROSIL®が発明される以前、SiO2薄膜の堆積で最も広く実践されていた手法の一つがPECVD(プラズマ支援化学気相成長)です。これは離れたチャンバー内で真空下(低圧グロー放電プラズマ)で行われます。名称のとおり、CCVD(燃焼気相成長)とは異なる化学気相成長プロセスです。PECVDは標準的な化学気相成長より低温で行われ、多様な種類の成膜コーティングや機能化表面を作るうえでより汎用的です。主な欠点は、オフラインのバッチ処理であることと、設備・消耗品のコストが高いことです。PYROSIL®は大気圧下で行われるため、コスト効率の高いインライン運用に最適です。低温ガスプラズマによる表面改質もご参照ください。
研究事例:低表面エネルギー熱可塑性樹脂の接着
PYROSIL®プロセスを裏付ける研究は数多くあります。V. Seitzらによる研究では、熱可塑性樹脂のポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)について、大気圧プラズマジェット(APPJ)とPYROSIL®火炎を比較し、接着強度の向上を検証しています(文献2)。この研究では、PYROSIL®でより小さな接触角が得られたことが、光電子分光法(XPS)、90°はく離試験データ、表面分析によって確認されたと説明しています。
接触角(CA)の測定
基準サンプルと各種表面処理後のサンプルについて水接触角を測定しました(図3)。未処理の熱可塑性樹脂は主に疎水性を示し、測定された接触角は86.2°(PBT)から104.0°(PPS)の範囲でした。プラズマ処理とPYROSIL®火炎はいずれも、試験したすべての熱可塑性樹脂の濡れ性に大きく影響し、接触角が明確に低下しました。PBTでは、接触角が29.0°(プラズマ)と10.1°(PYROSIL®)に低下しました。PEEK表面(基準値91.6°)の親水化はさらに顕著で、水接触角は17.7°(プラズマ)と10.5°(PYROSIL®)になりました。試験したポリマーの中で接触角が最も大きいPPSでは、大気圧プラズマ処理後に30.3°、PYROSIL®火炎処理後に24.0°が測定されました。
接触角の測定により、APPJとPYROSIL®火炎によって熱可塑性樹脂表面が親水化されたことが確認されました。水接触角が大きく低下しているためです。この濡れ性の向上は、ポリマー表面に官能基が形成されたことによるものです。プラズマ処理では周囲の空気をプロセスガスとして使用するため、表面に酸素や窒素を含む基が生成されます。これらの極性基が水に対する濡れ性を高め、接触角が低下します。PYROSIL®火炎は、ポリマー表面に厚さ数nmのSiOx層を形成します。この層の濡れ性は非常に良好で、接触角は10.1°(PBT)から24.0°(PPS)であり、無極性の熱可塑性樹脂と比べて極性が非常に高い親水性シラノール基が多量に形成されたことを示しています。
PYROSIL®処理したPEEKサンプルのXPSサーベイスペクトルには、Si2sおよびSi2pのピークが現れます。未処理サンプルにはこれらのピークがないことから、熱可塑性樹脂表面にシリカ含有層が堆積したことがわかります。PPS表面でも、基準サンプルと比べてPYROSIL®サンプルではSiの明確な増加が見られます。さらに、PEEKとPPSの両方のPYROSIL®処理表面で酸素が著しく増加しており、これもSiOx堆積の結果です。
原子間力顕微鏡(AFM)の写真2は、微細なテクスチャーによって機械的な密着を高めるSiO2堆積層を示しています。
製造用途での検討事項
PYROSIL®の技術、装置システム、ガス消耗品は、SURA Instruments GmbHの北米総代理店であるApplied Surface Technologies LLCが販売しています。特注設計の装置は、他のサードパーティのインテグレーターからも提供されています。インテグレーターごとに、燃焼システムの設計、バーナーの選定、ゼロガス圧レギュレーター、プロセス制御、表面試験に関する経験と設計に大きな差があります。すべての装置が同じ品質とは限りません。
PYROSIL®という名称は、サードパーティ企業によって、よく似た名称ながら同一ではないプロセスに緩く使われることがあります。こうした例は、購入を検討されるお客様の混乱を招くおそれがあります。
PYROSIL®とは異なる別の処理方法として、(急速加熱のための)火炎処理に続けて、噴霧式の化学プライマーを塗布する組み合わせがあります。プライマーにSiOx種が含まれる場合もあります。この方法はCCVDではありません。
PYROSIL®プロセスで最適な結果を得るには、すべての装置システム構成要素、特に燃焼システムの設計を慎重に評価してください。次の点をご検討ください。
- プロジェクトの初期段階で、AST、SURA Instruments、またはPYROSIL® CCVDの専門家にご相談のうえ、必要な火力(空気出力、バーナー能力と長さ、空気/ガス混合気のBTU)、炎の距離(平面または曲面形状)、最適な処理レベル、前駆体濃度、装置設計を決定してください。
- PYROSIL®処理した表面を適切に分析し、ボールスティック堆積法で極性と「後退」接触角を正確に求めてください。XPS試験でO2とSiO2の元素組成を定量してください(高価な試験ではありません)。ダイン液試験だけでは必要な情報が得られません。
- 装置メーカー候補に技術仕様書を提示し、発注前に適合性を確認してください。
- 再現性のある密着結果を得るため、製造中は一貫したPYROSIL®プロセスのセットアップを維持してください。
結論
PYROSIL®は、ポリマー、ガラス、金属の接着性を高める優れたプロセスです。曲面を持つ大きな成形品表面や、平らなインフレーションフィルムの処理に適しています。自動化システムは非常に効果的で、容易に組み込めます。他の気相表面酸化法とは異なり、PYROSIL®(CCVD)は、大気中で基材上にSiO2薄膜コーティングを堆積させる化学プロセスです。
PYROSIL®と従来の火炎処理はプロセス面で共通点がありますが、火炎の化学的性質と表面の機能化のメカニズムは異なります。最適な処理には、すべての構成要素を含む燃焼システムの設計が重要です。わずかなセットアップの変更でも、接着結果が変わる場合があります。なお、本稿で述べた考え方は一般には有効ですが、すべての用途に当てはまるとは限らず、個別の検討が必要な場合があります。
参考文献
- Sabreen S. Flame plasma surface modification of polymers for adhesion bonding: process control, equipment and applications. Plastics Decorating Magazine July/August 2020.
- Seitz V, K. Arzt, Mahnel S, Rapp C, Schwaminger S, Hoffstetter M, Wintermantel E, (2015). Improvement of adhesion strength of self-adhesive silicone rubber on thermoplastic substrates — comparison of an atmospheric pressure plasma jet and a PYROSIL® International Journal of Adhesion & Adhesives, Volume 66.
- AST/SURA Instruments PYROSIL® A technology with a broad range of applications 2004.
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The Sabreen Group, Inc.は、表面前処理、接着接合、加飾・仕上げ、レーザーマーキング/レーザー溶着、製品セキュリティといったプラスチック二次加工プロセスを専門とするエンジニアリングコンサルティング会社です。SABREENは30年以上にわたり、新技術の開発と製造上の課題解決に取り組んでいます。972-820-6777までご連絡いただくか、www.SABREEN.comをご覧ください。
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